設立趣意書

 国際化と称した近年の財務会計分野での変革は著しい。この現象を分析し,極論すると,国際会計基準やアメリカ基準の要請に基づいて,いわば導入に終始していると言っても過言ではないかもしれない。このような状況に鑑み,今こそ,これまでわれわれが依って立ってきた財務会計理論を顧み,そこに流れる会計思考の本質を明らかにするとともに,変革を要請している国際会計基準やアメリカ基準の会計思考との関係を明らかにする必要があろう。このような作業は,到底,一人研究者が成し得るものではない。なぜなら,国際会計基準やアメリカ基準の分析のみならず,これまでわれわれが研究してきた会計史論や簿記理論を始め,財務会計理論の様々な分野での広範な研究の蓄積の集約が求められ,このためには,多くの研究に従事してきた者の絶え間ない議論が必要とされるからである。ここに,本研究会を立ち上げる最大の理由がある。
 ところで,日本の会計研究界は,財務会計のみなならず管理会計,原価計算,更には実証研究などの研究者を含む会計学全般に渡る巨大な社会的存在に発展した。この事自体は,会計学の発展のために喜ばしいことであり,慶賀に耐えない。しかし,巨大化すれば,特定の分野での濃密な議論を闘わせられる機会を創出することに困難性を来すことになることは,歴史の知るところであり,また,組織論的にも当然の理とされている。このような状況に鑑み,財務会計理論に特化した研究機関を立ち上げることには意味があるものと思われる。現に,簿記,管理会計,原価計算,監査,税務会計などなど,会計学の中の特定分野に特化した学会が既に設立されている。
 翻って,わが国の他の学問領域と比較して,財務会計学の現状をみるとき,財務会計の研究者で組織されたいわゆる査読付きの権威ある機関誌が少ないのが現状である。そこで,本研究会の具体的な目的として,会員の濃密な議論に基づいた研究報告を収容した機関誌の発刊を掲げる。このためには,議論を保証する討論の機会を設けることが必須になることは勿論であり,会員の資格についても厳密な基準を設けるべきことになる。
 さらに,最近の教育環境をみるとき,財務会計理論の分野においても短期間による博士号取得が求められている。この結果,学説研究や歴史研究を典型とする息の長い社会科学的研究が等閑視される傾向がある。これは,理論研究にとって将来的に由々しき問題となろう。本研究会は,このような成果の獲得に長期間を要する財務会計研究に支持を与えるものでもある。
 以上の趣旨により,本趣旨に賛同する財務会計研究者の参加を求めるものである。

平成18年11月23日

発起人:泉 宏之(横浜国立大学),岡村勝義(神奈川大学),菊谷正人(法政大学),黒川保美(専修大学),郡司 健(大阪学院大学),上妻義直(上智大学),佐藤信彦(明治大学),白木俊彦(南山大学),高須教夫(兵庫県立大学),高山朋子(東京経済大学),瀧田輝己(同志社大学),中野常男(神戸大学),新田忠誓(一橋大学),原 光世(龍谷大学),原田満範(松山大学),土方 久(西南学院大学),藤井秀樹(京都大学),松井泰則(立教大学)

学会役員

財  務  会  計  研  究  学  会   役 員

第5期(2017年10月1日-2020年9月30日) 

 

会 長 上野 清貴

副会長 佐々木 隆志 藤井 秀樹 

理 事 菊谷 正人 郡司 健 佐藤 信彦

 白木 俊彦 高須 教夫 

監 事 岩崎 勇 依田 俊伸 

幹 事 井上 定子 金子 善行 吉田 智也

 

編集後記

 

平成29年10月21日(土),財務会計研究学会第11回大会が兵庫県立大学で開催された。そして今回は,大会での報告に基づく3編の論文と大学院生による研究奨励論文1編,計4編の論文が編集委員会に寄せられた。

編集委員会では,これらの論文につき,まず匿名の査読委員(レフリー)を論文1編に付き2名依頼し,その査読意見を参考にして協議のうえ,再査読および掲載の可否を決定した。結果として本誌には4編の論文が掲載される運びとなった。この間,年度末・年度初めの多忙な中,熱心に審査に取り組んで頂いた査読委員・編集委員の方々には心からの謝意を表したい。

 また,本学会における研究報告をもとにする論文については併せて「講評」を掲載している。講評の執筆者の方々には,ご多忙の中にもかかわらず短期間のうちにおまとめいただいた。ご努力に対して深く感謝申し上げる。

 さらに本号には,本学会の趣旨を受け,「書評」を掲載している。執筆者のご尽力に心からの敬意を表したい。

なお,本号には本学会会員の申請に基づく「会員業績一覧」も掲載している。その最終仕上げについては,事務局・吉田智也先生にひとかたならぬお手数をおかけしている。厚く御礼申し上げる。

 

『財務会計研究』

 編集委員長 佐々木隆志(一橋大学)

 編集委員 石原 裕也(専修大学)

 白木 俊彦(南山大学)

 成川 正晃(東北工業大学)

 橋本 武久(京都産業大学)

 原田 保秀(四天王寺大学)

 吉田 智也(中央大学)                      (佐々木・記)